秋の森に囲まれたブレッド湖と島の教会。その向こうに雪をかぶった山並みが連なります。
スロベニアは、アルプスと地中海のあいだにある小さな国です。北西にはユリアン・アルプスがそびえ、南西には石灰岩のカルスト台地と短い海岸線が広がっています。国土の半分以上が森なので、どこを走っても緑の景色がついてきます。
国がとてもコンパクトなため、1~2日で山から海の近くまで移動でき、首都リュブリャナからブレッド湖までは車で1時間もかかりません。村と村は静かな田舎道や自転車道で結ばれているので、上り坂を助けてくれるe-MTBなら、いくつもの地域を無理なくつないで走れます。
このガイドでは、代表的なコースであるブレッド湖のループを中心に、ブレッド、ボーヒン湖、ヴルシッチ峠、ソチャ渓谷、カルスト台地の五つの地域の道と見どころを紹介します。

ゴレンスカ地方 ブレッド · 湖面は標高約475m
ブレッド湖の森のループ
- 距離
- 約45~50km(獲得標高 約500m)
- 日程
- 日帰り
- 路面
- 舗装路+森と砂利の道
- 難易度
- 初級
ブレッド湖は氷河がつくった小さな湖です。湖の真ん中の小島には教会が建ち、北岸の崖の上からは城が湖を見下ろしています。背後にユリアン・アルプスとカラヴァンケ山脈を望むこの景色は、スロベニアを紹介する写真に最もよく登場します。
湖を一周しても約6kmで平坦なので、初めてe-MTBに乗る方の足慣らしにもぴったりです。このルートではさらに森の道と村の小道を加え、ブレッドの北にあるヴィントガル渓谷の入口を通ってラドヴナ谷を上っていきます。上りは短く緩やかで、五つのルートのなかで最もやさしいコースです。
ラドヴナ谷はトリグラウ国立公園の中にあります。公園内で自転車に乗れるのは舗装道路と自転車用に表示されたルートだけなので、谷では車道から外れないようにしてください。道は澄んだ川、牧草地、古い農家のそばを静かに通っていきます。
見どころ
ブレッド島の教会
伝統的な木の手こぎ舟「プレトナ」に乗って岸から渡ります。船着き場からは99段の石段が教会まで続いています。
ブレッド城
湖の上の崖の頂に建つ城です。城壁からは、湖と島、遠くのユリアン・アルプスが見渡せます。
ヴィントガル渓谷
ラドヴナ川が削ってできた狭い渓谷で、崖に取り付けられた木の遊歩道を歩いて見て回ります。歩いて通るルートなので、自転車は入口に置いて歩いて行ってください。
クレムシュニタ
ブレッド名物のクリームケーキで、薄いパイ生地のあいだにカスタードとホイップクリームが厚く重なっています。走り終えたら湖畔のカフェで味わってみてください。
トリグラウ国立公園 · 湖面は標高約525m
ボーヒン湖とサヴァ川の谷
- 距離
- ブレッドから往復 約60km
- 日程
- 日帰り
- 路面
- 舗装路+自転車道
- 難易度
- 初級~中級
ボーヒン湖はスロベニア最大の自然湖で、ブレッドの西約25~30kmのところにあります。トリグラウ国立公園の中にあるため湖岸に大きな建物はなく、高い山が水辺まで迫っています。ブレッドよりずっと静かで、奥地に来たような雰囲気があります。
ブレッドからは、サヴァ・ボヒンカ川に沿って谷を緩やかに上っていきます。湖の南岸には西端のウカンツまで車道が通っていますが、北岸は歩道なので、自転車は南側の道を走ります。
東端にある小さな石橋と教会は、ボーヒンを代表する景色です。西端からはサヴィツァの滝へ向かう道が始まり、湖の南西端からロープウェイに乗れば、湖全体を上から眺められる高さまで上がれます。
見どころ
洗礼者聖ヨハネ教会と石橋
湖の水が川へ流れ出る東端に建つ小さな教会です。橋の上からは、教会と湖と山を一枚の写真に収められます。
サヴィツァの滝
湖の西端の上の森にある滝です。最後の区間は階段の道なので、自転車を置いて歩いて上ってください。
ヴォーゲル・ロープウェイ
湖の南の山へ上るロープウェイです。晴れた日には、トリグラウ山周辺の峰々まで見渡せます。
ボーヒンのチーズ
この谷では昔から、夏の放牧地でチーズがつくられてきました。村の店で地元のチーズを買って味わえます。
クランスカ・ゴーラ~トレンタ · 峠は標高約1,611m
ユリアン・アルプスを越えるヴルシッチ峠
- 距離
- クランスカ・ゴーラ~ボヴェツ 約50km(獲得標高 約800m)
- 日程
- 日帰り
- 路面
- 舗装された峠道(一部のヘアピンは石畳)
- 難易度
- 上級
ヴルシッチ峠は、スロベニアで最も標高の高い車道の峠です。ユリアン・アルプスの中心部を越え、北のクランスカ・ゴーラと南のソチャ渓谷を結んでいます。第一次世界大戦中にロシア人捕虜が建設した道で、両側を合わせて50か所あるヘアピンカーブには、それぞれ番号がついています。
クランスカ・ゴーラからの上りは短いものの急で、石畳のヘアピンカーブもあります。普通の自転車ではきつい峠ですが、距離が短いので、e-MTBならアシストを強めにしても楽に上りきれます。頂上では、道のすぐ脇に岩の峰がそびえています。
峠を越えると、ソチャ川が始まるトレンタの谷へ長い下りが続きます。道はトリグラウ国立公園を通るので、車道から外れて山道に入らないでください。そのまま下りきってボヴェツまで行けば、次の章のソチャ渓谷のルートにつながります。
見どころ
ロシア礼拝堂
道路建設中に雪崩で亡くなったロシア人捕虜を追悼して建てられた、小さな木造の礼拝堂です。上り坂のクランスカ・ゴーラ側の森の中にあります。
ヤスナ湖
峠道が始まるクランスカ・ゴーラの近くにある小さな湖です。上りの前のウォーミングアップにちょうどよい場所です。
ソチャ川の源流
トレンタ側では、山道を少し歩いて上ると、ソチャ川が岩の間から湧き出る場所にたどり着きます。自転車は道路脇に置いて歩いて行ってください。
プリモルスカ地方 ボヴェツ・コバリード・トルミン · 標高約200~450m
エメラルド色のソチャ渓谷
- 距離
- 1日 30~50km
- 日程
- 1~2日
- 路面
- 舗装路+川沿いの砂利道
- 難易度
- 初級~中級
ソチャ川は、エメラルドのように澄んだ緑色の水で知られています。ユリアン・アルプスに源を発し、深い谷を南へ流れていて、ラフティングやカヤックを楽しむ人々が集まります。流れに沿って、ボヴェツ、コバリード、トルミンの村が並んでいます。
川に沿って下流へ向かうとほとんどが下りか平坦な道なので、楽に走れます。幹線道路を離れて対岸の小道や砂利道を走れば、車を避けつつ川をより間近に楽しめます。ボヴェツは、周りの山へ向かうマウンテンバイクの拠点にもなっています。
第一次世界大戦中、この谷はイゾンツォ戦線の戦場でした。コバリードの博物館や、山腹に残る塹壕と要塞が当時の歴史を伝えています。
見どころ
コバリード博物館
イゾンツォ戦線の歴史を伝える博物館です。ヘミングウェイの小説『武器よさらば』に描かれた退却は、このあたりで起きました。
コジャクの滝
コバリード近くにある滝で、岩に囲まれた洞窟のようなくぼみに流れ落ちています。最後の区間は歩いて向かいます。
クルージェ要塞
ボヴェツ近くの深く狭い峡谷の上に建つ古い要塞です。橋の上から峡谷を真下にのぞき込めます。
トルミン渓谷
トルミンの上流で二つの川が岩を削ってできた狭い渓谷で、トリグラウ国立公園の南の入口にあたります。歩いて見て回ります。
プリモルスカ地方 クラス台地 · 標高約300~500m
カルスト台地の石の村
- 距離
- 1日 40~60km
- 日程
- 1~2日
- 路面
- 静かな舗装路+砂利道
- 難易度
- 初級~中級
クラスは、イタリアとの国境にある石灰岩の台地です。雨水が地下にしみ込んで洞窟やくぼ地をつくる地形は世界中で「カルスト」と呼ばれていますが、その言葉はこの地域に由来しています。地上には赤い土と石垣とブドウ畑が、地下には巨大な洞窟が広がっています。
台地は高低差が小さく、緩やかな起伏の道が続き、静かな田舎道が石造りの村々を結んでいます。ほとんどの村に家族経営の小さなワイナリーがあり、立ち寄りながら地元の味を楽しむ、のんびりした一日に向いています。
近くには、ユネスコ世界遺産のシュコツィアン洞窟群と、多くの人が訪れるポストイナ鍾乳洞があります。洞窟はガイドと一緒に歩いて見学するので、一日は自転車を休ませて洞窟めぐりにあてるのもよいでしょう。
見どころ
シュコツィアン洞窟群
地下に消えていくレカ川が削ってできた、巨大な地下の峡谷です。1986年にユネスコ世界遺産に登録されました。
リピツァ
16世紀に創設された古い牧場で、白馬リピッツァナーの故郷です。広い牧草地と並木道に囲まれています。
シュタニェル
石造りの家が段々に積み重なる、丘の上の古い村です。頂上からはクラス台地と周りの谷を見渡せます。
テランとプルシュット
赤い土で育ったブドウからつくる赤ワインのテランと、台地の風で乾燥させた生ハムのプルシュットが、この土地の名物です。
出発前に知っておきたいこと
おすすめの時期
5月から9月がおすすめです。ヴルシッチ峠は雪が消えてから開通し、9月下旬から10月にかけては、ブレッドとボーヒン周辺の森が赤や金色に色づきます。真夏のブレッドはとても混み合います。
天気
ユリアン・アルプスでは夏の午後ににわか雨や雷雨がよくあり、南側は雨が多くなります。カルスト台地と海岸部は、夏は暑く乾燥しています。一日のうちに天気が変わることがあるので、レインジャケットはいつも持ち歩きましょう。
道路と自転車
トリグラウ国立公園の中で自転車に乗れるのは、舗装道路と自転車用に表示されたルートだけです。公園の外でも山の登山道の多くは自転車通行禁止なので、林道や表示のある自転車ルートを走ってください。村と村を結ぶ自転車道や静かな田舎道はよく整っています。
食べ物
カルニオラ・ソーセージ(クランスカ・クロバサ)、生地を巻いてつくるダンプリングのシュトゥルクリ、くるみのパンのポティツァ、豆とザワークラウトを煮込んだヨータをぜひ試してください。ブレッドに来たら、クレムシュニタを一切れ食べずに帰るのはもったいないです。
お金と通信
通貨はユーロ(EUR)です。ほとんどの場所でカードが使えますが、山小屋や小さな農家のために現金も少し持っておきましょう。携帯電話の電波はほとんどの場所で良好ですが、山深い谷ではつながらないところもあります。
入国と安全
スロベニアはシェンゲン協定加盟国です。入国の条件は国籍や時期によって変わるので、出発前に大使館の案内を確認してください。緊急通報番号は112です。必ずヘルメットをかぶり、峠道やトンネルではライトを点けて走りましょう。
スロベニアは小さな国ですが、湖、峠、川、石の村がすぐ近くに集まっているので、毎日が違う旅のように感じられます。それぞれの間の距離が短いので、急ぐ必要はありません。気に入った湖や川があれば、立ち止まってひと休みしてください。
この道を走る自転車が必要なら
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